明治探偵冒険小説集Ⅰ「黒岩涙香集」(ちくま文庫)
長編「幽霊塔」と短編「生命保険」の二編収録。
「幽霊塔」は一八九九(明治三十二)年八月九日から翌年三月九日までの全百二十二回、「萬朝報」に連載されたもの。原作はA.M.ウィリアムソンの「灰色の女」(一八九八)。
こういう作品を再版してくれる筑摩書房にただ感謝。江戸川乱歩の翻案版が有名な作品であり、私は更に子供向きにリライトされたポプラ社版「時計塔の秘密」で最初に読んだ。図書館の本で読んだポプラ社版少年探偵全集のうち、唯一購入して読んだほど、乱歩作品のうちでも特に物語に引き込まれた作品である。少年物、大人物と読んで、当然涙香の原作(?)を読みたいと思っていたが、一九七六(昭和五十一)年に出た旺文社文庫版はとっくに絶版で入手困難だった。
涙香版を初めて読んだのは数年前に「青空文庫」にアップされているのを発見したとき。テキスト版でダウンロードして、ワープロソフトで文庫版二段組みにして印刷して読んだ。だから今回は再読ではあるが、文庫版できちんと装丁された本を読めるのは嬉しい。
何度も読んだ乱歩版と読み比べると、乱歩は殆ど原作に手を入れていないのが判る。乱歩をして筋をいじる必要が無かった程、面白い物語構成なのだと思う。少年時代の乱歩が夢中になって読んだというのも頷ける。
再版してくれただけでも望外の喜びなのだが、更に贅沢を一つ。旺文社版が底本になっているので新字新仮名遣いになっているが、初刊の扶桑堂版(一九〇一年)に戻って旧字旧仮名遣いに戻していただけたら最高なのだが・・・。乱歩版は昭和の作品だし、現在でも娯楽作品として現役だと思うので新字新仮名、涙香は明治の作品で文学資料と位置づけられるので旧字旧仮名。そんな使い分けをしてもいいのではないだろうか。口語體だからといつて何でも新字新假名にせず、歴史的な作品は舊字舊假名に戻せば、文學的價値を正しく後世に傳へる事が出來るのではなひだらうか。
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