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2007年8月18日 (土)

「幻の湖」(一九八二 橋本プロ)

東宝DVD

 東宝創立五〇周年記念作品。制作・脚本・演出、橋本忍。主演、南條玲子。
 ネットで調べるとあちこちで面白おかしく紹介されている作品。私はラジオで唐沢俊一が昭和バカ映画のベストスリーに挙げているのを聞いて、興味本位で鑑賞。

 先日仲間と浅草に行ったとき、アサヒビールの黄金の○ンチを見て、「アサヒビールで反対した社員とかいなかったのかなあ」というA氏の疑問に、「組織って全員で勘違いすることってあるじゃない」と応えた。この映画が正にそれだろう。勿論、東宝の社員の中に疑問を持つ人は居たはずなのだが、それが言い出せないような勢いで突っ走ったのだろう。そして客観的な「不入り」という理由により、二週間で上映打ち切りになった。

 まず、主演の南條玲子がひどい大根役者である。走れるという理由だけで起用されたのだろうか。金はかかっているらしく、大物役者をこれでもかというほど脇役に投入し、豪華ではある。しかし、アイドル映画なら主役は大根でも華があるが、この主役ではお話にならない。
 そして、何よりこの映画をトンデモ映画にしているのは、その脚本のぶっ飛び具合だ。安物の映画にありがちな都合のいい偶然。元同僚の外人トルコ嬢(実は諜報員)と東京の街中で偶然再会するとか、犬を殺した東京の作曲家が、なんの脈絡もなく雄琴のトルコに客で来るなど。無意味に長い、仇(敢えて犯人とは言いません)を追って延々と走る場面。謎の男(NASAの宇宙飛行士)が語る湖にまつわる戦国時代の伝説の長い実写シーンとちぐはぐな現実との切り替え。そして、観客総ズッコケだったであろう、琵琶湖大橋で仇を追い越した(!?)時の「勝った」という台詞と最後の宇宙の場面。
 何も知らない善意の第三者に、私がこの映画の筋を詳しく説明したら、多分その人は「やっぱりこの人・・・」と、私を哀れみの目で見るだろう。それほど正気とは思えない脚本である。

 人と金はふんだんに使った映画らしく、カメラアングルや道具類もいい。そして何より私の心を掴んで離さなかったのは、全編に流れるリストの交響詩「前奏曲」。近接マイクで録音された微妙に下手だけど暖かみのある演奏。誰が演奏しているのかと最後のクレジットを見ると、芥川也寸志指揮東京シンフォニック管絃楽団としてある。この映画の音楽監督である芥川也寸志が、寄せ集めのガクタイを指揮した演奏だったのだ。奏者一人一人は下手だけど音楽全体に漂う暖かみは指揮者のせいだったようだ。

 とにかく呆気にとられっぱなしの二時間四十四分(長すぎ)。トンデモ映画と承知の上でレンタルDVD四百円ならば悪くはない。まともな映画と思って映画館で観たら「金と時間を返せ」って暴れたくなる映画でした。

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