東京都交響楽団第六六〇回定期演奏会
エリアフ・インバル プリンシパルコンダクター就任披露公演
二〇〇八年四月二八日 東京文化会館
マーラー/交響曲第八番変ホ長調「千人の交響曲」
澤畑恵美、大倉由紀枝、半田美和子(Sop.)、竹本節子、手嶋眞佐子(Msp.)
福井敬(Ten.)、河野克典(Bar.)、成田眞(Bas.)
晋友会合唱団(合唱指揮:清水敬一)
NHK東京児童合唱団(合唱指揮:加藤洋朗)
インバルのお披露目公演で、いきなり千人を取り上げるとは、都響もなかなかやる。それもA定期とB定期の間にミューザ川崎での公演を挟み、三日間三会場三公演。舞台スタッフは死ぬ思いをしていることだろう。
私は別にインバルのファンではないのだが、自称「マラ8マニア」なので、初日(東京文化会館)と二日目(ミューザ川崎)を聴く。ちなみにミューザ川崎でコンサートを聴くのは初めて。音の混沌が予想される三日目(サントリーホール)は避けてみた。
東京文化会館の舞台はかなり広めだが、舞台後方の音響反射板が一間ほど後ろに下げられており、通常の合唱雛壇に追加するように仮設雛壇が設けられている。これだけ手間をかけて一公演しか使わないのは勿体ない気がする。オーケストラはハープが四台いる他は最少編成。客席バンダだけ二倍。合唱は児童合唱が百数十名、混声合唱が三百数十名くらいか。
インバルの千人は、一九八六年録音のCDと大きな構成は変わらないが、レパートリーとしてこなれた分、全体にテンポが早くなっている。もっとゆったりして欲しい部分もあるが、全体の統一感を考えれば適切か。表情過多になりやすい(というよりマーラー自身がそれを狙って書いた)音楽だが、独唱パートも表情は抑え気味。ドラマティックな曲作りを期待すると肩すかしを食うが、全体的に引き締まった表現のため、曲自体の冗長さをうまく隠す効果があった。
都響は好演。勿論生なので幾らかの綻びは見えたものの、よく鳴っていた。ここ一番で絃にもう少し艶が欲しい気がするが高望みだろうか。合唱も好演。晋友会は安心して聴けたし、大抵不満が残る児童合唱も、人数が多く不満はなかった。それにしても、合唱は全員が暗譜。暗譜が偉いわけではないが、よく練習しているということだろう。ソリストは女声陣が好演、四人のバランスも良く安心して聴ける。それに対し男声陣は不満。テノールの福井敬はいつになくガラガラ声で、全く声が伸びず苦しそう。フレーズの最後をブツ切りにして、何とか唄いきった感じだったが、体調が悪いのではないかと心配になる。三日目は持つのだろうか。バリトンとバスは音量不足。特にバスは誰が唄っても生では苦しい。威厳をもって唄おうとすればオーケストラにかき消され、音量を出そうとすれば吠えっぱなしみたいな歌唱にならざるを得ない(岡村喬生がいい例)。このバスをまともに聴かせられる日本人はなかなか現れない。
インバルを迎えることが都響にとっていいのか悪いのかは微妙だと思う。インバルが振れば客は入るだろうし、私のようなマーラー好きにも有り難い。しかし、前任のデプリーストが三年で去り、インバルだって長くはないだろう。会社もオーケストラも余裕がないから、即動員増の人ばかり欲しがって、人を育てられなくなっているような気がする。
川崎の終演後、エキストラで乗っていたNさんと久々に飲む。お互い深刻な問題が身の回りに多いのに、久しぶりに会ったら楽しくなっちゃって、主に猫の話題で盛り上がる。いいのか?。
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