コバケンの千人
マーラー/交響曲第8番変ホ長調「千人の交響曲」
菅英三子、澤畑恵美、秋吉邦子(Sop.)、西明美、竹本節子(Alt.)
伊達英二(Ten.)、青戸知(Bar.)、ペテル・ミクラーシュ(Bas.)
合唱/日本フィルハーモニー協会合唱団、武蔵野合唱団
児童合唱/東京少年少女合唱隊
管弦楽/日本フィルハーモニー交響楽団
指揮/小林研一郎
一九九八年五月十四、十五日サントリーホール
日本フィル第五〇〇回定期演奏会のライヴ録音
十年も前の録音が何故今頃発売されるのかは不明だが、とにかくコバケンの千人がCDで聴けるのは有り難い。当時二日とも客席で聴いたが、初日は第一部の後に休憩を入れたのに、二日目は休憩無しで、全体のテンポも二日目の方が早めだったと記憶している。
マラ八は幾つもの録音、実演に接してきたが、拡散型か凝縮型の二つのアプローチに分類できると思う。近年実演で接した演奏はいずれも凝縮型だった(ベルティーニ、広上、インバル)が、このコバケンの演奏は拡散型。テンポをゆったりとって、スケールの大きさを前面に出すアプローチだ。珍しくスコアを置いて指揮していたコバケンだが、テンポの崩し方などは堂に入っており、不慣れな演目であることは感じさせない。しかし、残念なことにスケールが大きく、呼吸が深くなるほどに、曲のアラが目立つ結果となっているように感じる。合唱陣が非力で、唱いきれていないのも原因であるが、曲の弱さを実感する。その意味ではこの曲のCDとして初心者向けではなく、比較対象用と言えるかも知れない。
独唱陣は悪くない。ベートーヴェンの第九では表情過多だった青戸知も、この曲はこれくらいくどくていい。バスは日本人でまともに唱いきれる人材が居ないので、ミクラーシュを起用したのか。実演では流石な声量だと感じたような気がするが、CDで聴くとあまり巧くない。
音の混沌状態になりやすいサントリーホールで、巨大編成のライヴ録音だが、条件が悪かったわりに録音はいい。全体的に近接マイクの音作りだが、曲と会場を考えれば正しい方針だろう。客席では絶対あり得ないバランスで聞こえるパートも散見するが、実際サントリーホールの客席で大編成のオケを聴いていると、何をやっているのだかサッパリ判らないことが多い。録音として聞かせるには、この程度のバランス操作は問題ないだろう。
コバケンが好きか、マラ八が好きで、既に他の曲、他の演奏を聴き込んでいる人向けなCDと言えると思う。
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