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2008年7月18日 (金)

東京フィル第四〇回東京オペラシティ定期演奏会

二〇〇八年七月十七日(木)東京オペラシティコンサートホール

指揮、クラリネット/ポール・メイエ

ヴァイオリン/平澤仁 ヴィオラ/須藤三千代
チェロ/渡邉辰紀 コントラバス/加藤正幸
ファゴット/大澤昌生 ホルン/森博文
オルガン/新山恵理

ベートーヴェン/七重奏曲変ホ長調作品二〇
サン=サーンス/交響曲第三番ハ短調「オルガン付き」

 室内楽と大編成のオーケストラを続けて聴くことで、楽器としてのホールを体感するという趣旨らしい。
 七重奏曲は初めて聴いたが、肩の凝らない佳曲。メイエのクラリネットは音色、表現共に素晴らしく、東フィルのトップ奏者たちも楽しそうに演奏していた。全体的に室内楽的なバランスが保たれていたが、時にヴァイオリンだけが浮いて聞こえる場面があった。表現がソリスト的になってしまったせいだろう。
 室内楽編成だと私の席(一階ほぼ中央)からは直接音が弱く、輪郭がはっきりしなかった。娯楽的な曲なのでさほど気にはならないが、BGMのように聞こえ、迫力不足と感じた。

 クラリネットの名手メイエだが、指揮の方は全くの素人。随分下手な指揮者を何人も見てきたが、これほど棒が振れない人も珍しい。サン=サーンスの第一楽章は辛うじて何とかなっていたが、第二楽章前半の裏拍が強い部分では、最初は「(ウン)タカタカ、タンタカタカ、タンタカタカ、ター」と振っていたのに、オケに引っ張られて裏拍を叩いてしまう。オケは頭だけ指揮者を見ていたが、後はコンマス任せだった。
 棒は下手でも音楽性が素晴らしいということなら理解できるのだが、この指揮者、別段珍奇な事をするではなく、かといって深い表現があるでもなく、曲作りはごく平凡。第二楽章以降はオケが自主的に突っ走った感じで、聴いていて退屈するわけではないのだが、特に感心もしないという演奏。感想をまとめれば、棒の下手な指揮者だったけど、オケは好演だった、というところか。
 しかしそれだけだったら、わざわざここに感想を書いたりしない。オルガンのことについて書きたいのである。
 第二楽章後半の派手な部分のオルガンは、オケとのバランスも良く、まず模範的な演奏と感じた。こけおどしに派手な音を出せば、素人は喜ぶのだろうが、そのような外連がないのが素晴らしい。もっとも、オルガン奏者はオケとのバランスを客席で確認することは不可能だから、限られたゲネプロ時間中に、経験と勘を頼りにバランスを取るのだろう。
 そして更に素晴らしかったのが第一楽章後半の緩徐部分。空気のざわめくような三十二フィート管の持続音の上で主題を奏でる絃楽器の美しさ。素人にはオルガンが鳴っているとは判らないような音作りとバランスが素晴らしく、ため息が出るほどだ。そして、コーダの四七二小節。オケの音が消え、オルガンの和音がピアニシモで降ってくる部分。この世のものとは思えない美しさに全身粟立ち、思わず涙腺が緩んでしまった。あれほど天国的なオルガンの音を聴いたことがない。間違いなく第一楽章終結部の数小節が、この演奏会の白眉であったことは間違いないだろう。

 オペラシティで聴く大編成のオケは、いつも音の渦に巻き込まれる感じで、何をやっているのか判りにくい。特に今回のように一階席で聴くとその感を強くする。あの無駄に高い天井が問題なのだと思う。小編成でも大編成でも天井からの跳ね返りがなく、初期反射音が不足するので明瞭度が下がり、音が滞留してしまう感じがするのであろう。だから、天井との距離が近い三階席の方が、音のバランスは好きである。
 私は過度な残響は嫌いなので、二曲を聴き比べて、ベートーヴェンは東京文化会館の小ホール、サン=サーンスは新宿文化センターで聴きたかったと思った。

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