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2008年10月 9日 (木)

華魁(一九八三年 武智小川プロ)

脚本・監督/武智鉄二 彩プロDVD

 唐沢俊一がラジオで「日本バカ映画ベスト・スリー」の一つに挙げていた作品。レンタル落ちのVHSで一度観たが、画像音声とも状態が悪すぎた。最近になってDVD化されているのに気づいて購入。画質音質ともに比べものにならないほど見やすくなった。

 あらすじは書かないが、話の種に見るべき映画だろう。R-18指定なので、家族や恋人同士での鑑賞はお勧めしない。
 脚本・監督の武智鉄二は「美の改革者」などと呼ばれているようで、武智歌舞伎なるものの創始者ということだ。しかし、この映画を観る限りは「美の改革者」というよりは「エロの異端児」と言って構わないだろう。
 とにかく全編エロ満載である。主役の菖蒲太夫(親王塚貴子)の着衣率は八〇年代のアイドル系AV女優より遙かに低い。台詞が棒読みで演技も下手くそだが、恐らく主演女優の採用基準は演技力よりハードコアシーンに耐えられるかに重きを置いただろうから仕方がない。少なくとも普通の女優に出来る役柄でない事は間違いない。
 それでも、長崎の遊郭を舞台にしている間は「愛欲シーン満載の主演が大根の映画」という印象だが、真夫である貸本屋の男に唆されて廓抜けをする辺りから雲行きが変わる。アメリカに密航する(と菖蒲太夫は思っている)船の中で、潜んでいる葛籠を動かされて自分の排泄物を浴びる辺りから変態の世界に入っていき、すぐに膝に殺された貸本屋が人面疽となって現れる。もっともこの映画は最初のタイトルから谷崎潤一郎の「人面疽」を原作(?)と謳っているので、人面疽が出てくる事自体は予想できる。
 アメリカと思って横浜の租界に連れてこられ、アメリカ人の大金持ちに求婚された菖蒲太夫。求婚を受け入れるのだが、「二度と所帯は持たない」という約束で姿を消していた貸本屋の人面疽が黙っていない。新婚初夜のお床入りで膝ではない意外な(予想できる)部位に現れ、とんでもない(ある意味当然の)行動をする。呼び出されて、エクソシスト丸パクりの悪魔払いをする神父に「この悪魔は異教徒です」とすがる菖蒲太夫。笑いどころ満載のクライマックスだ。そして最後は悪魔が滅びて、延々と続くベッドシーンにエンドロール。結局行き着くところはそこしかないようだ。
 一九八三年という時代を考えれば仕方ないのだが、今日の感覚からすれば「そこまで隠さなくても」と思うほどのボカシ処理が目障りなのが残念だ。原作と謳われた谷崎潤一郎の「人面疽」という作品が読んでみたくなった。

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