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2008年11月 9日 (日)

藤沢の千人

マーラー/交響曲第八番変ホ長調

中沢桂、酒井美津子、曽我栄子(ソプラノ)、木村宏子、長野羊奈子(アルト)
板橋勝(テノール)、平野忠彦(バリトン)、岡村喬生(バス)
合唱/湘南合唱連盟(合唱指揮/福永陽一郎)
管絃楽/東京都交響楽団
指揮/山田一雄

一九七九年二月十二日藤沢市民会館
藤沢市民会館開館十周年記念事業「山田一雄の世界」第四夜

ソニー/SICC九五七~八

 中学生の時持っていた「クラシックレコード総目録」には、山田一雄指揮のマーラーの交響曲が二種、「京響の復活」と「藤沢の千人」(私の勝手な命名)が掲載されていた。地元の新星堂には置いていないので取り寄せを頼んだが、二種とも廃盤になっていた。
 以来二十五年、東京文化会館の音楽資料室で擦り切れたLPでしか聴けなかった音源が、昨年来続けてCD化された。これに勝る喜びはない。

 「京響の復活」は一九八一年の京響創立二十五周年記念演奏会の実況録音。当時の京響は今と比較にならないほど下手だが、常任指揮者(一九七二~七五)だった山田一雄にとっては手兵オケで、周年記念公演で練習も充分。綻びは散見されるが感動的な名演である。合唱のレヴェルも高い。

 一方「藤沢の千人」は藤沢市民会館の開館十周年記念事業。当時藤沢市文化担当参与を務めていた福永陽一郎らにより企画された「山田一雄の世界(*)」の実況録音。オケは都響だが、依頼公演で練習不足だし、合唱も寄せ集めだ。しかし、東京、大阪に続く日本で三番目の「千人」が藤沢で演奏されたのは快挙であり、記念碑的な録音と言えると思う。
 改めて聴き直してみる。全曲中で五箇所(**)、聴いていてハラハラするような大事故が起こる。このおかげでトンデモ盤との印象を否めないのは残念だ。しかし、何度も聞いているとその先にある、ヤマカズの千人の世界が見えてくる。山田一雄はこの曲の日本初演を行い、作曲家としてはプリングスハイムに師事したマーラー直系の孫弟子である。プリングスハイムが東京音楽学校でマーラーの交響曲を次々と日本初演した際、オケでハープを弾いており、マーラー直伝の解釈を直に見ている。全体的なテンポは中庸だが、表情が濃厚で、凝縮型の表現である。とにかく練習不足が感じられ、ヤマカズの思いが十分音になっていないもどかしさを感じる。
 山田一雄はこの録音の七年後にアマチュアの新交響楽団を指揮して三度目の「千人」を演奏している。オケはアマチュアだが十分に練習を重ねた分表現が練れており、オケの出来はそちらの方が高い。しかし、合唱は藤沢盤の方がうまく、録音も藤沢盤が格段に素晴らしい。晩年の手兵オケだった新星日本交響楽団が一九八九年に「千人」を取り上げているが、残念ながら指揮はオンドレイ・レナルトだった。この時ヤマカズが振っていれば、きっと最高の演奏が出来たのではないかと惜しまれる。
 ともかくも伝説の録音がCD化され、ヤマカズ再評価の気運が高まっていることが嬉しい。続いて新星日響や新響の音源が日の目を見てくれることを祈っている。

(*)「山田一雄の世界」全四夜(一九七八年五月~一九七九年二月) 「ブラームスの夕べ」「現代音楽の夕べ」「モーツァルトの夕べ」「千人の交響曲」

(**)第一部一六六小節~第一合唱が一拍早い、二六〇小節~トランペット落ちる、四三七小節~テノールソロ二拍遅れる、第二部二八九小節~バスソロ一小節出遅れて弦がつられ管楽器と一小節ずれたまま進む、一一八六小節~児童合唱が一小節早い

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