「釣りキチ三平」(二〇〇九「釣りキチ三平」制作委員会)
講談社「週刊少年マガジン」創刊50周年記念作品
二〇〇九年三月二十二日 立川シネマシティ
一九八〇年代に釣り少年だった世代には、釣りの教科書だった漫画の実写化。「釣りバカ日誌」シリーズで散見される、釣り上げたばかりの魚がグッタリ衰弱している不自然さを解消すべく、CGを駆使した釣りシーンが売りだという前評判。実は十一日によみうりホールで行われた試写会の招待状を手に入れていたのだが、会社の送別会のため断念。封切り三日目に観に行く。
前半は原作の「水のプリンセスの巻」、後半は「夜泣谷の怪物の巻」。前半はほぼ原作通りの筋だ。後半では原作では赤の他人である愛子が、東京に住んでいる三平の姉という設定で現れる。この愛子が田舎暮らしの三平&一平のアンチテーゼとして物語は進む。間に挟まる事になる魚伸が、設定上原作とは違う三枚目キャラになるのは仕方がないのだろう。
心配だった釣りシーンのCGは、お茶の間映画としては十分に楽しめる出来である。釣りのシーン以外でもCGが効果的に使われており、夜泣谷の怪物の姿もギリギリお笑いにならない範囲に収まっていると思う。主役の須賀健太は好演だと思う。表情が豊かなところは素晴らしいが、もう少し三平のお調子者な要素が表現できれば良かった。一平爺さんと魚伸も好演。重要な脇役であるユリッペが、ちょっとお淑やかすぎるのが難点か。原作通りお転婆で手が付けられない雰囲気が欲しかった。愛子はこの脚本では大変重要な役だが、頑なに田舎暮らしを否定しているうちはいいのだが、後半の展開に演技が追いつかない。役者として技量不足である。
役者の技量よりも気になったのは、やはり釣りのシーン。夜泣谷の怪物が針に掛かって以降のやりとりの場面で、リールからギリギリ糸が出るほど引き合っているのに、竿を支えている腕に全く力が入っていないのが見え見えで白けてしまった。撮影時には空竿を持たせて撮影したのが見え見え。せめてスタッフが見えないところで糸を引っ張ってやれば、幾らかリアリティのある映像が撮れたのではないだろうか。
原作を全巻所有している(文庫版だが)くらい好きな作品だ。そして、三平を師として釣りをしてきた。だから、実写版映画の評価はかなり厳しくなる。原作を知らず、釣り師でもない人が観るなら、かなり楽しめる映画だと思う。この映画を観た子供たちが、原作を読み、釣りに興味を持ってくれたらいいと思う。原作者・矢口高雄の釣り論は、時に気恥ずかしいほど青臭いが、子供が最初に目覚めるには丁度いい。それから段々現実を知っていけばいいと思う。
この映画が、釣りの入り口になってくれればいいと思う。
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