笑う超人 立川談志×太田光(Contents League二〇〇七)
五代目 立川談志
「黄金餅」(スタジオ収録)
「らくだ」(スタジオ収録)
(特典映像)「鼠穴」 (二〇〇六年十二月十四日時事通信ホール「タイタンライブ」収録)
太田光が監修して談志の芸を伝えるというDVD。発売当時、ラジオで伊集院光が絶賛していたが、特段興味もなかった。久々に覗いた貸しビデオ屋にDVDがあったので借りてみた。
まず、改めて談志の芸の力を改めて実感する。特に畳みかけるらくだと鼠穴の後半は鬼気迫ると言っていいと思う。もう既に声も出ていないし、言いよどみ言い間違いも多いが、勢いがついてくると気にはならない。特にスタジオ収録の二編はピンマイクを付けているので、音声が聞き取りやすく、PA屋泣かせの談志の声が明瞭に聞き取れるのは有難い。残念ながら地の部分が多くなる「黄金餅」は面白くない。そうでなくても「あー」とか「うー」とか言っているのが多いのに、地の部分だとそればっかりで聞き苦しい。談志信者にはあの理屈っぽいマクラがたまらないのだろうが、そうでもない者には時に退屈でうんざりする。私の感想は「談志好きが観ればいいDVD」という感じだ。
そこで考えるのは、何故太田光がこのようなDVDを作ったのかということ。画面から感じられるのは、太田光の「談志ってこんなに凄いんだぜ、観てよ観てよ!」というメッセージのみだ。その談志に対する惚れ込みようというか崇拝心というか、無邪気にはしゃいでいるのは微笑ましく感じるほどだ。
しかし、それを商品化するということについては疑問を感じる。太田光が談志の「黄金餅」と「らくだ」が好きなのは構わない。だが何で一枚のDVDにこんなついた(内容が似通った)ネタを並べるのか。合間に収録された対談で繰り返される、陰惨な犯罪と芸術の話とは、どっちがタマゴでどっちがニワトリか知らないが、面白くないし納得も出来ない。
そして映像については、以前に志の輔のDVDを観たときにも感じたのだが、何故複数台のカメラでアングルを切り替えながら見せなければならないのか。これは、映像の作り手が面白がっているだけで、観る者にとっては余計なお節介以外の何者でもない。もし太田光が談志の芸を伝えるのにこのカメラワークが必要だと思っているのなら、太田は談志の芸はおろか、噺の何たるかも理解できていない、単に談志の偉そうな芸談に当てられたバカだ。場面場面で切り替わるアングルや、手持ちのカメラで顔面を接写しわざと画面をぶれさせることが、談志の芸を伝える上で必要なのか。だとしたらCDやラジオでは芸は伝わらないことになるだろう。
出囃子を廃して、既に談志が喋っているところから映像に入る手法も、太田光らしい発想だ。つまり彼は客席で噺を聴いたことが殆ど無いのだろう。寄席やホールで、自分の好きな噺家の出囃子が鳴り、めくりがかえり、袖から姿が見えた瞬間の胸の高鳴りというものを知らないのだ。長く一緒に仕事をしているから、袖から舞台に出ていく後ろ姿は観ていても、客席でわくわくした経験がないのだろう。噺家が高座に登場する姿というのは、その物真似だけで宴会芸になるほど味のあるものなのに、そこをバッサリ切り落とすとはちょっと考えられない。
全編観終わって感じたのは、このDVDは談志の芸を観るものではなく、談志を素材にした太田光の「オレの感覚」を見せびらかすものだということ。元々私は談志は嫌いな噺家だが、このDVDを観て、改めて凄い所があるということを見直し、噺家としての評価は少し回復気味だ。しかし、太田光についてはハチャメチャで面白い芸人だと思って好意的だったのだが、偉そうな論をぶつわりに、本質が解ってないんだなとガッカリした。
談志信者や太田信者にはいいのかも知れないが、「太田が好きだから太田が薦める落語を聞いてみようかな」という向きや、単に落語を聞いてみようという初心者には決して薦められないDVDである。
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コメント
う〜ん、相変わらずバッサリ斬りますね。
まっとうなご意見です。私もそう思います。
恐れ入りました。
投稿: 梅奴 | 2010年10月 4日 (月) 14時23分
おお梅奴さん。
てえことは姐さんもご覧になったんですね。
噺って空想力で楽しむ芸なので、根本的に
映像での記録と相性が悪いと思います。
TBSの落語研究会みたいなアングルなら
邪魔にならないんですけどね。
投稿: へべれけ | 2010年10月 4日 (月) 17時49分