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2011年12月 5日 (月)

NHK交響楽団第一七一五回定期公演

NHK交響楽団第一七一五回定期公演

二〇一一年十二月四日NHKホール

エリン・ウォール、中嶋彰子、天羽明惠(ソプラノ)
イヴォンヌ・ナエフ、スザンネ・シェーファー(アルト)
ジョン・ヴィラーズ(テノール)、青山貴(バリトン)
ジョナサン・レマル(バス)
東京混声合唱団(合唱指揮/松井慶太)
NHK東京児童合唱団(合唱指揮/加藤洋朗)
管絃楽/NHK交響楽団
指揮/シャルル・デュトワ

マーラー/交響曲第八番変ホ長調「一千人の交響曲」

 N響史上三度目の千人。A定期二日間を二日とも聴く。我ながら物好きである。
 当初予告から第一ソプラノとテノールが変更になり、本番数日前に第二ソプラノも変更になる。N響に限らず今年の三月以降外国人出演者の変更が多いが、日本人は外国人が知っている何かを知らされていないような気がする。

 NHKホールは久々に張出舞台を目一杯使い、音響反射板を二間ほど後ろにずらした最大舞台。プロセニアムと反射板の間に一文字幕が下がっているのが妙な気配だ。気のせいかも知れないが、そこから音が抜ける気がして、いつも以上に鳴りの悪いNHKホールに感じる。
 N響は、かつて見た事のない巨大編成。絃は二〇ー十二型。フルート六、オーボエ五、クラリネット六、ファゴット五、ホルン九、トランペット五、トロンボーン三、テューバ一、ハープ四、マンドリン一。合唱は混声合唱が二百五十名、児童合唱が百三十名くらいか。ソリストは指揮者の上下に女声男声と分けて並び、栄光の聖母はオルガンバルコニー。金管バンダは二階席上手後方に配置。張出舞台で指揮者とソリストの位置が手前に来ているので、三階人民席からはとても見えにくい。

 デュトワのマーラーは初めて聴くが、フランス人のマーラーはこんな感じかと納得。独墺系指揮者の演奏に慣れているので、時に肩すかしを食らう。特に次のフレーズに移る部分での撓め(ルバート)が無く、予想外にあっさり次のフレーズに移ってしまう。それはそれで面白いのだが、ハッと冷静になってしまって、音楽に没入出来ない難点となる。N響も管楽器中心にミスが散見されて、デュトワが振っているわりには集中力に欠ける気がする。
 そして、何より不満が残るのは独唱陣。女声陣とバリトンは若干不満はある物の及第点としたい。テノールとバスがどうにもならない。ヴィラーズはアルミンク/新日本フィルでも聴いたが、こんなに下手ではなかったと思う。ここ一番の高音部分で裏声にしてやんわり唱うのは、デュトワの指示なのか声が出ないからなのか。何れにしても、高くて声が出ない部分を裏声で歌うのは、今時素人のカラオケでもやらない唱い方で、金を取って聴かせるものではない。更に最悪だったのがバス。聴かせ所の第二部の独唱は、声が悪い、声量が無い、音程が取れない、テンポに付いていけないの四重苦。ヘレン・ケラーより上だ。大編成のオケと渡り合わなければならない難しい部分なのは解るが、プロとはとても思えない。この歌手を誰の意見で起用したのか知らないが、全くお話にならない。先日の大地の歌のテノールと並び、何故N響がこんな下手な歌手をわざわざ海外から招聘したのか、首を傾げざるをえない。日本人でもっとまともに唱える歌手は幾らも居るだろうと思う。
 合唱陣は好演。NHK東京児童合唱団は、国内では少ない黄色い子供声でない児童合唱団。全員暗譜でよく練習している事が判る堅実な歌唱。東京混声合唱団もプロらしく、安定した歌唱。普段三十人くらいの合唱団が何故今日だけ二百人以上居るのかと云う事は触れない方がいいのだろうか。かつて、日本プロ合唱団連合という名前で、東混(東京混声合唱団)、日唱(日本合唱協会)、二期会の合同編成合唱団がオーケストラの演奏会に出演していたが、今回もそれに近いのだろう。名義は東混だが、実態はプロとして合唱の出来るエキストラを二百人以上集めたという事だろう。実体はともかくとして、人数が多いので完璧な合唱を求めるのは無理だが、アマチュア合唱団で遭遇する無理に怒鳴ったりする部分が無く、特に不満を感じる事は無かった。

 デュトワのマーラーがどんなものか、かなり期待をして聴いたのだが、とても禁欲的な曲作りで、何を目指しているのかが今ひとつ判らない。ソリストの不出来にも足を引っ張られる形になったが、部分部分は首を傾げる表現が多かったが、総合ではやはり熱い演奏になっていたと思う。もっとも、この曲を盛り上げずに演奏出来る指揮者が居たら、ある意味天才であろう。今までの経験では、飯森範親が唯一その位置に近づいた指揮者だ。

 二日間で同じD席の内、初日を三階C五列センターやや下手寄り、二日目を三階R三列の壁沿いで鑑賞。席の違いによる音圧の差に愕然。センターでは殆ど聞こえなかったバリトンのソロが、壁沿いではしっかり聞こえ、オケの音量も段違い。バランスが良さそうに感じられる中央より、反射音が豊富な壁沿いがいいのは、NHKホールや芸劇のような容積の大きなホールでは覚えておいて損はない知識のようだ。

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