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2011年12月 2日 (金)

熱海土産温泉利書

三遊亭圓朝「熱海土産温泉利書」(一八八九(明二二)金泉堂)

 国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで発見した初版本のスキャンデータで読んでみた。後に春陽堂~世界文庫~角川書店と版を重ねる、鈴木行三校訂編纂による圓朝全集にも所収されているので、そちらの方が読み易いだろうが、生憎青空文庫に未所収なので初版で読む。旧仮名旧漢字、総ルビ、句読点改行無し、変体仮名ありでなかなか手強く、二日かかって読破した。
 旧字旧仮名だけならば慣れているから驚きはしないが、句読点無しは大変だ。更に、口演の速記なので、文章が長くて、読んでいる内に主語が判らなく成ってしまう。更に、変体仮名や崩し字が多く、平仮名の「に」「な」「え」、漢字の「申」「御」などは最初は読めなかった。しかし、読んでいる内には慣れてしまうもので、後半になってくると殆ど違和感なく読めるようになった。

 物語は、奉公先の次男といい仲になった武士の娘が、惚れた男のために吉原に身を売ったり、男を殺した敵夫婦を斬り殺したりするのだが、実はその男は金に困っても殺されても居なかったという話。大圓朝の作らしく、ストーリーの展開が早く飽きさせない上に、真景累ヶ淵みたいに筋が複雑すぎないのでとても面白い。また、いかにも高座の速記らしく、端々にくすぐりが効いていて、圓朝の口演を聞いたらさぞかし引き込まれる事であろう。また、話の舞台が小田原、三島、八王子、吉原、根岸、熱海で展開されて、わりと身近な地域だったのも親近感が沸く。

 実際の文章をテキストデータにしてみるとこんな感じになる。

熱海土産温泉利書
                三遊亭圓朝口演
                酒 井昇造速記
   第   一   席

さて此度のお話ハ物事の聞違ひ見違ひ想ひ違ひの間違ひだらけのお話で物ハ間違ひませんとお話にハ成りませんもので先達て茅場町の待合茶屋香川で筆記の節奥二階から下を見下すと丁度草津亭の後ろに大した立派な新築で料理茶屋だらうかと思ひますると此家が官員さまのお宅でござい升と云ふやうに見違へる事が有ります此間も圓朝が少々用事が有て左團治丈の處へ参りまして普請の出來た事を知りませんからズイと家へ這入りに掛ると石門で御坐いまして瓦燈口に成て左右へ開きが有りますからお醫者の家かと心得てお隣の格子作の宅をガラ/″\と開けて「エー左團治さんのお宅ハ御當家さまですかと云ふと取次に出た女中が「イヽエお隣で御坐い升と云た其お宅がお醫者さまでしたが然う間違ひます事があり升から何んでも間違たのについて却ツてお話に成るもので御坐い升物事が皆な間違ひ聞違ひ想ひ違ひを致しまして人を誤殺たり或ハ自分で身を捨てるやうな事が出來ます是ハ發端で御坐い升處は相州小田原にてお高ハ拾一萬三千○二十九石余と云ふ十露盤の勘定見たやうなお扶祿で大久保加賀守さまと申まして大したお家柄で御坐い升其お家へ極下役でお口番を勤めて居りました溝口三右衛門と云ふ仁が御坐いましたが・・・

 句読点がないというのは非常に読み難いと云うことがお判りいただけるかと思う。折角なので、同じ部分の実際の画像もご覧いただこう。

Atami

 いかがだろうか。一見難しそうだが、実際には大して難しくない。こんな面白い物が、無料で閲覧、ダウンロードできるとは、税金を納めた甲斐があったと思う。

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