どうするエクストン
ベートーヴェン/交響曲全集
管絃楽/チェコ・フィルハーモニー管絃楽団
指揮/小林研一郎
エクストン(オクタヴィアレコード)から刊行中
小林研一郎(以下コバケン)指揮チェコ・フィルハーモニー管絃楽団によるベートーヴェンの交響曲全集が録音セッションが続いており、既に四枚のCDが発売されている。
二〇一〇年一二月一五日発売
・交響曲第三番(二〇一〇年 四月二九~三〇日録音)
二〇一一年 四月二七日発売
・交響曲第二番(二〇一〇年 四月二九~三〇日録音)
・交響曲第五番(二〇一〇年一一月一八~一九日録音)
二〇一一年 七月二一日発売
・交響曲第七番(二〇一一年 四月一四~一六日録音)
・交響曲第一番(二〇一一年 四月一四~一六日録音)
二〇一二年 一月二五日発売
・交響曲第六番(二〇一〇年一一月一八~一九日録音)
・交響曲第四番(二〇一二年一〇月一九~二〇日録音)
最初から「ベートーヴェン交響曲全集」の第一弾という触れ込みでの発売だったが、四枚目が発売された段階で今後の発売に大きな疑問が湧いたのである。
CDでベートーヴェンの交響曲全集を作る場合、五枚のCDに収めるのが普通である。一~八番を一枚に二曲づつ、そして九番を単独で一枚。第九が遅すぎてCD一枚に収まらない朝比奈盤のような場合は例外だが、大抵は時間的に五枚で収まるのである。
コバケンの場合は三番が単独だったので、三枚目が出た段階で「六枚組にして、残りは四、八番の組み合わせと、六番と九番が一枚づつ」であろうと予想した。ところが四枚目は四、六番の組み合わせで、残りは八番と九番の二曲となった。残り二曲は到底一枚のCDには収まらない。七〇分ほどかかる九番は単独でもいいが、二五分程度の八番一曲では一枚売りのCD商品として内容が薄い。エクストン社はあと二曲をどのような形で発売するのだろうか。
エクストン・レーヴェルといえば、活気の無いクラシック業界で気を吐いているレーヴェルで、特に邦人演奏家の録音を次々にリリースしてくれる姿勢に感謝以外の言葉はない。しかし、何故かレーヴェル設立当初から現在まで、どうしても胡散臭さを払拭出来ない印象があるのだ。
確かケチの付き始めは朝比奈のブルックナーだったと思う。朝比奈隆の追悼盤として発売されたブルックナーの交響曲第八番が発売後に編集ミス(編集点を誤って一小節カットしてしまった)が発覚したのに自社ウェブサイトでのみ期限を切って交換対応した。それに怒ったファンが粗探しを始め、スケルツォの冒頭とダカーポ時が同じ素材を二度使っている(何かが転がるノイズで判明)ことも発覚した。これにより、不誠実かついい加減な編集をした物を売った挙げ句、不良品対応もやる気がないというイメージが出来てしまった。
そして、エクストンの印象を更に悪くさせたのが、新旧録音の混在盤。一枚のCDのうち、半分は新録音なんだけど半分は既出盤からの再発売というやり方。新録音が聴きたければ必然的に既に持っている音源を重複購入しなければならない。私のように、コバケンの新録音が出たら取り敢えず買うという層にとっては、非常にバカにされているような気分になるやり方だ。最近で言うと一八一二年とくるみ割り人形組曲が入ったCDがこれに当たり。一八一二年を聴きたければ、既に持っているくるみ割り人形も抱き合わせで買わなければならないのだ。
更に私のエクストン不信を決定的にしたのが二〇〇八年七月二三日発売の、コバケン/チェコ・フィルによるブラームスの交響曲第二番と、同第四番。同じ服を着たコバケンがジャケットの二枚のCDがレコード屋の店頭に並んだので、「今度はチェコ・フィルとブラームス全集を作るのか」と思って二枚とも購入した。
二〇〇八年 七月二三日発売
・ブラームス/交響曲第二番(二〇〇二年 四月二五~二六日録音)初回限定ゴールド盤
・ブラームス/交響曲第四番(二〇〇八年 二月 七~ 九日録音)初回限定ゴールド盤
ところが家に帰って改めて見ると、このように録音時期がかけ離れている。おやおやと思ってCD棚を探ってみると、こんな物を発見する。
二〇〇二年一一月二〇日発売
・ブラームス/交響曲第二番(二〇〇二年 四月二五~二六日録音)SACDハイブリッド盤
(ジャケット写真)
(左)2002年初出の2番 (中)2008年再発の2番 (右)2008年初出の4番
二番の方は六年も前に発売され、その時に購入していた音源そのまんまだったのである。確かにインレイに録音データは明記してあるので、それをちゃんと確認してから買えばいいと言われるかも知れない。しかし、双子のようにそっくりなジャケットで、両方とも「初回限定ゴールド・ディスク」というシールを貼られて新譜コーナーに並べられた二枚のCDの、片方が再発盤だとは思わないのが普通だろう。いや、はっきり言ってわざとやっている。つまり私のようなおっちょこちょいが両方新録音だと勘違いして買う事を狙っているとしか思えないのである。
そんなことで、録音活動には敬意を、商売のやり方には警戒を感じるエクストンだが、コバケンのベートーヴェンはどうするつもりなのだろうか。今後の発売方法は、幾つか予想出来ると思う。
一、八番無しの「交響曲選集」とする。
確認は取れていないが、八番は四番と一緒に録音済みらしいので、これはないだろう。
二、序曲などの管弦楽曲数曲(新禄音)と八番を組み合わせて発売する。
一番まともな方法。付け合わせにする音源があるのかと、八番メインだと商品として弱いのが欠点。
三、八番と九番で二枚組CDとして発売
二の弱点を克服。内容的にCD一枚半になるので、値段も通常の二枚組よりも抑えれば良心的。
四、既出の三番と八番を組み合わせて発売する。
エクストンの常套手段。三番だけのCDは廃盤にして抱き合わせ販売。コバケンファンの手元には三番がダブって残る事になる。
五、八番はバラ売りせず「交響曲全集」セットにのみ所収して発売する。
最も阿漕な手口となるが、あり得なくはないと思う。残念ながらこうされたら全集セットを買わざるを得なくなる。
私がエクストンの社長だったら答えは三。バラでは売りにくい八番と、DVDを含めれば四種類も出ていて、こちらもバラではアピールしにくい九番を併せて、二枚組三千円というところが妥当な線のように思う。
やや(かなり?)エクストン社を揶揄するような書き方にはなったが、要するに私は早く残りの二曲が聴きたいし、また変な売り方をして顰蹙を買わなければいいなと心配しているのである。
(追記)
エクストンから発売予告が出て答えが判明。第八と第九のカップリング(二枚組)で価格は三千五百円。組み合わせはまっとうだが、価格は割高感がある。まあ無難なところであろう。四月二十四日の発売が楽しみである。
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