TALEXの偏光グラス
TALEXといえば、釣り師にとって憧れの偏光グラスのブランドである。昨シーズンの前、正確に言うと去年の一月に、私はTALEXの度入り偏光グラスを作った。フレームとレンズ、加工料等含め約四万五千円。手取りの給料約六日分という高額な買い物で、まさに清水の舞台から飛び降りる覚悟であった。
私の視力はここ数年の平均で右が〇、六、左が〇、四。普段の生活は裸眼で、運転、観劇、釣りなどの時のみ眼鏡使用である。釣り用のメガネは、鮎釣りの場合十数メートル先の小さな目印が見えなければいけないので、視力が一、五出るくらいの度が欲しい。
ところが、一年前に偏光グラスを作った頃、何故だか右目がよく見えており、裸眼視力で一、〇もあり、〇、四の左目との差が激しかった。視力を測定してくれた店員に、「普段は裸眼で釣り専用」と伝えたのだが、眼鏡屋というのは左右同じような矯正視力にしようとするらしく、最初提案された度数は右がマイナス〇、二五、左がマイナス一、〇だった。これでは左目が見えすぎて怖いと訴えた結果、度数は右がマイナス〇、五、左がマイナス一、〇となった。
ところが、偏光グラスが出来て暫くすると、私の右目の視力は平常値の〇、六程度に戻ってしまい矯正視力では左一、五、右一、〇程度になってしまった。裸眼の時には右の方がよく見えるのに、眼鏡をかけると左目の方がよく見えるというのは思いの外不便で、特に河原を歩く時などに足元の距離感が掴めずにつまづくことが多い。足場を決めればあまり動かない鮎釣りではさほど問題はないが、足場の悪い源流を遡行する沢釣りなどでは危険極まりない。結局、渓流釣りの時は古い偏光グラスを使っていた。
それ以前に使っていた度付き偏光グラス(一万円程度で作った安物)を調べてみると、左右同じ度数で作っており、こちらは違和感がない。結論として普段裸眼で生活している者は、矯正時に左右の視力差を解消しない方が違和感がない(程度はあるが)ということを実感した。
そこで、TALEXの偏光グラスも左右同じ度数に変更、つまり右のレンズをマイナス一、〇に変更することにした。
ところが、去年世話になった店に行き、右側だけレンズを交換したい旨告げると、店員は渋い顔をして、基本的にレンズは左右セットでしか販売しないので、メーカーに確認を取るという回答であった。日曜日だったので翌日連絡をもらうことにして店を辞去。翌日電話があり「左右セットでないと販売出来ない」との回答であった。販売店を責めても仕方ないので、メーカーの問い合わせフォームに事情を説明して問い合わせた所、次のような返信が来た。
(前略)
弊社にてペアのみの販売をさせて頂いております理由としまして、
度付度なしにかかわらず、レンズをペア単位にて製品管理し、
全てのお客様に安心して長期間お使い頂ければと考えております。
また、ご使用途中で片眼のみを交換してご提供する事につきましても、
左右で経過環境が異なる為、
長期ご使用にあたり、安心してお使い頂くお約束ができない為
左右両眼交換のみの対応とさせて頂いております。
(後略)
色々調べて見た所、クリアレンズ(普通の眼鏡)は片側のみの交換をしてくれるが、カラーレンズは色味が違ってしまうのでペアでないと交換してくれないという事が多いようだ。
それにしても、ウェブサイトでは最高の品質を謳っているのに、つまりはロットごと色味にばらつきがあるということだろうか。たった一年ほど前に販売した製品と同じ品質が保証出来ないとはお粗末な気がする。
TALEXは長期間安心してお使いいただくと言うわりに、保証はごく普通に一年だけ。ナンガのシュラフみたいに、本当に品質に自信があるメーカーは永久保証をする所だってあるのに。
早い話が、作り上げた高級ブランドイメージを笠に着た、非常に強気な商売である。普通のサングラスメーカーは左右ペアでないと販売しませんが、当社は高い品質と技術力が自慢ですから、片側だけでも色味もちゃんと揃えて対応しますよと言えば、メーカーとして信頼度が急上昇するだろう。あるいは、一年以上前の物なので、色味に若干の違いが出ますがご了承下さいとでも言えば、正直な姿勢に好感度も上がるだろう。そもそも色の見え方なんて左右の目で随分違うものだから、ちゃんと偏光で度数が合っていれば、多少色味が違っても構わないのに。
せっかく気に入っていた偏光グラスなので、片側のレンズのみ有償(単純計算で一枚一万九千円プラス工賃)で交換してくれるなら末永く使いたかったが、ペア(三万八千円)でないと対応しないというならば仕方がない。だったら新しくフレームごと作り直して、今のものは予備用としてお蔵入りさせるという判断になる。勿論、別のメーカーで作り直すという結論になるのが当然だ。
品質と長期間使用を売りにしているTALEXだが実体はこの程度。万年筆業界のモンブランみたいに、高いブランド品を所有することにステータスを感じる層からは支持されるのだろうが、実用性を求める私にとっては何の魅力もないメーカーになった。ま、正直、ブランドイメージに騙されていた私が愚かだったわけで、一シーズンもまともに使えなかった(釣行回数約二〇回)偏光グラス四万五千円は高い授業料だったということだ。
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