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2013年11月 7日 (木)

橘丸の進水式

橘丸(貨客船 五七三〇総噸) 

二〇一三年十一月六日 三菱重工業株式会社下関造船所にて進水

 二〇一四年七月、東海汽船の東京~八丈島航路に就航予定の貨客船、橘丸の進水式を見学してきた。旅行は計画から実行まで全部自分でやらないと気が済まない性分なのだが、今回は生まれて初めて旅行会社が主催するパッケージツアーというものに参加してみた。
 船マニア向けの旅行商品なので、下関まで飛行機で往復するような野暮なプランを立てないところは、流石船会社のパッケージツアーだ。前日の朝東京駅集合、新幹線で大阪まで行き半日自由行動。大阪南港から新門司行きの名門大洋フェリーに乗って船内一泊、翌日はバス移動で三菱重工下関造船所で進水式見学。午後は下関で自由時間があって、山口宇部空港から飛行機で戻るというスケジュールだ。当然私は大阪で珍スポット巡りなどをしたのだが、寄り道は別頁に譲って、ここでは進水式のことを中心に感想を書きたい。

 三菱重工のウェブサイトによれば、進水式は一般人も見学出来るようで、一般客や小学生の社会科見学なども来ており、賑やかな雰囲気だ。我々パッケージツアー組は船台の目の前までバスで入って、左舷側船首のすぐ前、バルバスバウを見上げる一段高い特等エリアに案内される。我々の右側には背広を着た社員らしき関係者エリア、背後が小学生、正面に吹奏楽団、その向かって左が一般エリアという配置である。開始時刻が近づくと東海汽船の重役たちが次々と船首と対峙する位置の壇上に上がる。橘丸の命名とカラーリングを担当した東海汽船名誉船長、柳原良平氏も登壇した。そして最後に山崎社長が登壇すると、命名式と進水式が始まる。
 山崎社長が命名を宣言すると、紅白幕で覆われていた船名が現れる。漢字で「橘丸」美しい船名だと思う。平仮名で「たちばな丸」にしなくて本当によかった。東海汽船ファンの間では、橘丸の名は三八航路の本船にはふさわしくなく、数年後に建造される片航路向けの新造船(さるびあ丸の代替船)にこそ相応しいという意見もあるが、私はどちらでもいいと思う。それよりも藤丸以来三十六年ぶりに漢字の船名が復活したことを喜びたい。
 命名式が終わると、続いて進水式が始まる。進水作業の進行を告げる第一号鐘、第二号鐘、第三号鐘が鳴らされ進水準備が進み、態勢が整ったところで社長夫人の支綱切断となる。船首の喫水線の所にセットされていたシャンパンの瓶が割れると橘丸は船台を静かに滑り降りる。くす玉が割れ、中から紙テープと風船が舞い上がる。吹奏楽団が「錨を上げて」を演奏する中、意外にあっけなく進水式は終了する。進水の瞬間は本当にあっという間で、吉村昭の「船艦武蔵」で描かれたような緊張感は無い、和やかな祝典という雰囲気であった。

 進水式が終わると唐戸市場にあるカモンワーフで自由時間になったが、私は迷わず関門汽船で巌流島に渡った。三菱重工下関造船所の目の前が巌流島なので、艤装岸壁に係留された橘丸の姿を見ようと思ったのである。巌流島から眺めると、橘丸は一番北側の桟橋に入り船で係留されており、船尾がよく見える。平べったいトランサムスターンの船尾は、同じ三菱重工下関製のおがさわら丸に似ている。そして南側の岸壁には先月進水した伊豆諸島開発のあおがしま丸が係留されており、図らずも八丈島で接続する航路の新造船二隻を同時に眺めることが出来た。残念ながら、私のコンパクトカメラでは巌流島と三菱はちょっと遠く、いい写真が撮れるかもとの目論見は外れだった。

 最後にやはり書かざるを得ないのは、橘丸のカラーリングについて。あおがしま丸のシンプルな青と白の船体に比べ、鶯色と黄土色を斜めに塗り分けた橘丸は本当に見苦しい色だ。最初にカラーリングが発表された時点から何たる珍妙な色かと呆れたが、実物を見れば少しはましなのかと一縷の望みを持って進水式に臨んだ。しかし、実際に実物を見ると、その珍妙さはふざけているとしか思えない。柳原良平の画集に載っているなら、あのタッチでこの色遣いでいいのだろうが、実際の船としては不細工なこと甚だしい。現在は二色だが、実際に就航すれば錆の茶色が加わって、雑な迷彩色みたいな色合いになるのだろう。現在のさるびあ丸やかめりあ丸のシンプルな美しさと比べると、同じ会社の船とは到底思えない。
 広報戦略として名誉船長などという中途半端な有名人にカラーリングを頼んでしまったので、誰も大っぴらに反対意見を唱えることが出来ず、引っ込みがつかなくなったのだろう。株主総会である株主が「おかしな色だ」と指摘したことに対し、山崎社長と社員株主が「こちらの方がいい」という意見で結束していた様子からも、翼賛態勢になっていることがうかがえる。このまま行けば、社屋の上に巨大なウンコを載せた向島の某大企業並の大失敗であると思う。
 これほど東海汽船が好きな私がこれほどまで批判的な論調にならざるを得ないという、残念な気持ちを解っていただきたい。私はあくまでも「橘丸の色は格好悪い」と主張する。東海汽船はこの件に関しては裸の王様だ。
 もっとも、船体デザインではなく色塗りの失敗なので、取り返しがつかないわけではない。私の楽観的な予想では、柳原良平氏が天寿を全うされ、山崎社長が社長(又は会長)を退任してほとぼりが冷めた頃、ドック明けの橘丸は普通の色遣いに変更されているのではないかと思う。或いは、さるびあ丸の後継船が完成した時に、色遣いを統一するという理由付けで塗色を変更するか。そもそも同じ会社の二隻しかない貨客船のカラーリングがバラバラというのは不自然なのだ。遠くからでもどこの船会社の船か判るのが船のカラーリングの原則だと思う。七月以降東海汽船の(ジェットフォイルを含む)六隻の船は、全部バラバラなカラーリングになる。こんなみっともない状態は早く解消してもらいたいものだ。

Tachibanamaru

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コメント

橘丸のカラーリングについては、まったく同感です。
この航路はよく利用するので、早く塗り替えられることを願うばかりです。

投稿: 島酔潜人 | 2013年12月 9日 (月) 17時14分

同感です。どう見ても貴婦人じゃないですよ。

投稿: 38 | 2014年7月 8日 (火) 04時16分

大酩酊へべれけ様のご意見まったく同感です。
あの塗色は残念でなりません。常軌を逸しているとしか言いようがありません。個人の趣味で公共の乗り物をああいう風にしてしまってもいいのでしょうか!?(鉄道の世界は何でも有りですが、)先代橘丸に敬意を払い茄子紺に白のシアラインを締めた重厚な姿、又は、さるびあ丸と同色の橘丸が、見たかったです。過激ではありますが、柳原迷余船長と山崎社長の一刻も早い退任を願わずにはいられません。

投稿: しぐなす | 2014年10月12日 (日) 21時05分

カラーリングについては全く同感ですな。
ようやく見慣れてきたものの、あくまで見慣れただけで決して美しくはない。コンテナ船ならいいと思うんだけど。
客船の基本は白でしょ。そこに各社のアイデンティティを入れればいいと思うけど、東海汽船の船体は白+青が基本だと思うな。

投稿: プリアタン | 2014年11月19日 (水) 21時11分

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