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2014年9月 8日 (月)

舳倉島

 念願の舳倉島へ上陸することが叶った。高校生の頃、第二次船ブームの最中だった私は、日本地図を眺めて能登半島の先にある小さな島が気になって仕方がなかった。しかし、インターネットも無かった時代、舳倉島に関する情報は余りにも少なく、また能登半島の先は余りにも遠くて実際に足を向ける機会は無かった。乗り鉄をやっていた時に、まだ鉄道が通じていた輪島までは行ったが、当然船には乗らずバスで宇出津へ抜けてしまった。
 昨年の九月に神通川に釣りに行った時、連日の雨で釣りにならず、北陸観光をしようと能登半島へ足を伸ばした。せっかくだから舳倉島に行こうと思いついたのだが、二日続けて荒天のため欠航。一旦行きたくなったら止まらなくなって、十月にも再びチャレンジしたものの、やはり荒天で欠航。三回も輪島港の岸壁に繋留されたままの連絡船ニューへぐらを悔しい思いで眺めてきた。

 今回は天候が良さそうなので期待を込めて九月一日に輪島入り。昨年行ってとてもよかった小料理屋、新駒で前祝い。残念なことに前回泊まって感じがよかった駅前の輪島ステーションホテルは廃業していた。翌二日は絶好の好天。船は予定どおり就航。定刻より若干前倒しの8時55分出帆。コンテナは満載しているが乗客は六名しか居ない。
 ニューへぐらは一九九七年墨田川造船建造の貨客船、一〇二総噸。船尾側にクレーンとコンテナを平積みするスペースが備えられているが、積まれているのは通常の一〇フィートコンテナではなく、一メートル四方ほどでやや縦長の小さなコンテナである。出港時に狭い港内で回頭するのだが、スラスターは装備していないらしく、船首のウインチで沖側に張られたロープを巻き上げている。岸壁側を見ている間に回頭作業が終わってしまい、ロープの先がどうなっていたのかは謎のまま。
 輪島港を出ると海上はべた凪。揺れてくれた方が楽しいのだが贅沢は言っていられない。全航程の丁度真ん中くらいで七ツ島に最接近する。この辺りまで来るとやっと船の進行方向に舳倉島の灯台の先端だけ見えるようになる。輪島の海岸から見ると約二十三キロ先で一番大きい大島の標高が六十一、七メートルの七ツ島はよく見えるが、約五十キロ先で標高十二、四メートルの舳倉島は全く見えない。地球が丸いことを実感させてくれる。
 一時間半の航海を終えて舳倉島港に近づくとあちこちに小舟やブイが浮かんでおり、ピンク色の旗が立っている。この時季は海女による素潜り漁が盛んであるとは知っていたが、こんなに大勢が漁をしているとは思わなかった。後で島内を散策して判るのだが、素潜り漁は島の周り一帯で行われているので、海女の人数は百人くらい居るのではないだろうか。
 ニューへぐらが舳倉島港に接岸し、島に上陸する。船からコンテナを降ろす荷役作業が行われているが、甲板上のクレーンで桟橋に下ろされたコンテナは、フォークリフトで島民のリヤカーに積み込まれる。輪島港で荷役を見ている時、何故こんな小さなコンテナしか使わないのか不思議に思っていたが、島内に自動車が無く運搬手段がリヤカーに限られるから、リヤカー輸送対応の特殊な小型のコンテナを使っているのだ。クルマのない島に上陸したのは初めてかも知れない。ネット情報では島内に自動販売機はなく、船が着くと島民が船内の自動販売機に飲料を買いに来ると書かれていたが、港に一台飲料の自動販売機が置かれていた。

 上陸してからのことは何も決めていなかったが、とりあえず島内を反時計回りに歩いてみる。海沿いの寒村らしい風景が美しいが、残念なことに殆どの家が木造の壁の外側に半透明の波板を貼って補強してしまっている。そして、屋根の上に太い綱がお好み焼きのマヨネーズのように蛇行して置かれている。何かのまじないなのかと思ったら、強風で瓦が飛ばされるのを防ぐためのようだ。集落を過ぎればお社くらいしか見るものは無い。島内の寺社をくまなく巡るが、特に島の北西側では寺社の周りに築かれた要塞のような石積みがすごい。冬の強風を避けるためと、平坦な島を少しでも高く見せるための二つの意味があるそうだ。しかし、案内図にある築山(ケルン)群というのは見当たらなかったし、シラスナ遺跡は看板だけで草むらにしか見えなかった。
 九月上旬の好天で、とにかく日差しが強くて暑い。遊歩道の周りは灌木と草むらばかりで日陰が殆ど無いので、寺社の軒先で休みながら島を一周して二時間。給水塔であるへぐら愛らんどタワーに登り、風通しのいい展望デッキの日陰側に座る。日差しを避けられれば風が心地よい。持参の握り飯とペットボトルの麦茶で昼食にする。島内には民宿が二軒あるが食堂などは無い。日帰り観光の場合、昼食は必携である。

 一通り島内を散策したので港に戻る。帰りの船まで二時間もあるので釣りをすることにする。リュックの中に短くたためるリール竿など釣り道具一式を入れてあるのだ。防波堤の先端、白い灯台の下で釣りの準備をしていると、海女達が次々とボートで帰港してくる。船上の篭にはいっぱいのアワビやサザエが積まれている。民宿に一泊したら夕食に供されるのだろうか。
 糸の先にジグヘッドというオモリ付きの針を結び、芋虫のようなソフトルアーを刺して釣り始める。すぐに魚がワラワラ寄ってくるが、一目瞭然の小フグの群れである。遊びなのでフグでも構わないと思っていたのだが、このフグたち歯が鋭くて、見る見るソフトルアーを食いちぎっていくのだ。これではかなわないと思い場所を移動するのだが、すぐにフグが寄ってきてしまう。そんな事をしていると、突然強い手応えがあり糸が引き込まれる。何かフグ以外のものが掛かったようだ。繋船の下に潜られないようやりとりして何とか釣り上げたのは、二十五センチくらいのワカシ(ブリの子)だった。晩のおかずにぴったりだが、クーラーボックスはおろかビニール袋も持ってきていないので、勿体ないが放流するしかない。もう一度釣れないかと思って同じ場所を探るが、すぐにフグが集まってしまった。

 帰りの船は往きと同じ乗船客もいたが、島で一泊したらしい二十代前半くらいのカップルが一組乗っていて、島民らしい爺さんから「星は見たか、ここで見る星は輪島で見る星よりずっときれいなんだ」と話しかけられている。出港するので甲板に上がって島を見ていると、件のカップルも上がって来て、並んで満足そうな清々しい表情で島を眺めている。若いカップルなのにこんな島に旅行に来るセンスもいいし、こんな何もない島を満足そうに振り返っている様子もいい。若いのにいい旅をしている二人に幸あれと願う。

 念願の舳倉島であったが、天気が良かったせいもあり期待以上に楽しめた。他に行ってみたい島がまだまだ沢山あるので、再訪するとしても少し先になるとは思うが、次回は是非一泊で来て、島で採れたサザエやアワビを食べてみたいと思う。

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舳倉島港で荷役中のニューへぐら

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