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2015年8月 9日 (日)

ヤマカズ/大阪センチュリー響の「エロイカ」

ベートーヴェン/交響曲第三番変ホ長調作品五五「英雄」
モーツァルト/バレエ音楽「イドメネオ」~ガヴォット

管絃楽/大阪センチュリー交響楽団
指揮/山田一雄

一九九一年三月十五日 ザ・シンフォニーホール
大阪センチュリー交響楽団第四回定期演奏会実況録音

ライヴノーツ/WWCCー七七八二

 一九九〇年四月に大学に入学した私は、高三~浪人期間に途絶えていた演奏会通いを再開した。中でも年齢的に今のうちに聞いておきたいと思った山田一雄(以下ヤマカズ)の演奏会は欠かさず聴きに行き、遂に東京以外の公演でも追いかけるようになった。その最初の地方追っかけ演奏会が当時新進気鋭だった大阪センチュリー響の第四回定期演奏会だった。金は無いけど暇はある大学生だったので、往きは東海道線の普通列車乗り継ぎで、帰りは急行「銀河」のB寝台で帰って来た。まだ鉄道乗り潰しを趣味にする前なので。演奏会のチケット以外何も予約しておらず、演奏会が終わってから大阪駅に戻り、どうやって帰るか時刻表を開いて考え込んだ記憶がある。そして翌日はオーチャードホールで朝比奈/東響のブル九(この演奏もCD化された)を聴いたのだった。今思い出しても充実した日々だった。ヤマカズの地方追っかけは、その後京都(三月)、仙台(五月)と続いたが札幌(五月)と福岡(五月)は所属サークルの都合で叶わなかった。
 そんな懐かしい演奏会の音源が突然CD化された。うっかり気がつかずにいたのだが、ネットで発見して早速入手して聴いてみた。
 ヤマカズのエロイカは何と四種目の録音らしいが、既出の音源と基本的にアプローチは変わらない。しかし、実演で聴いた演奏そのままに、オーケストラが非常に乗っていて、熱い演奏になっている。ヤマカズの舞台に何度も接した人は覚えていると思うが、この指揮者は乗ってくると眼鏡を外す癖があった。その外した眼鏡を指揮しながら指揮台の隅っこに置いてみたり、控えている独唱者に渡したりして、客席から見ていてもハラハラさせられたものだ。確かこの演奏会でも第一楽章の終わりで眼鏡を外して、指揮台の後ろに置いたり、また拾い上げて掛けたり(?)していた。晩年はあまり眼鏡を外すことは無かったので、この時は創立間もないオーケストラの熱気に煽られて、ヤマカズも乗った演奏を繰り広げている。
 そして、このCDで一番嬉しいのはアンコールで演奏された、モーツァルトの「イドメネオのガヴォット」が収録されていることである。ヤマカズがよくアンコールで演奏した小品だが、何とも楽しい演奏で、指揮者、オーケストラともに心から音楽を楽しんでいるのが伝わってくる。ヤマカズのアンコールは殆ど練習していないぶっつけ本番な雰囲気のことが多かったが、大抵遊び心に溢れた演奏を聴かせてくれた。この録音でも鼻歌と唸り声の中間みたいなヤマカズの声が聞こえ、客席で聴いた時のあの幸せな瞬間を追体験させてくれる。ただ残念なのは、録音がCD化前提ではなく記録用の録音で、恐らくホールスタッフにお任せの三点吊りのみのワンポイント録音なのであろう。絃はよく聞こえるが、管楽器とティンパニが遠く隔靴掻痒の感を否めない。CD化前提の録音ではないので仕方ないのだが、もう少しバランスの良い録音で聴きたかった。
 ヤマカズのアンコール演奏といえば、この録音のひと月半後に収録された、新星日響との最後の演奏会の「マドンナの宝石」間奏曲が遊び心満載でオーケストラも指揮者もノリノリ、聴いていて思わず顔がほころんでしまうような名演だった。今回それに並ぶヤマカズのライヴの雰囲気を伝える録音が一つ増えたことを心から喜びたい。更に贅沢を言えば、同じくヤマカズのアンコールピースだった、ピエルネの「小牧神の入場」をCD化出来ないだろうか。一九九〇年に新星日響と新響で演奏しているので音源は残っていると思う。毎度同じ事ばかり言って申し訳ないが、新響とのマーラー交響曲全集の余白に入れてもらえれば嬉しいのだが。

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