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2016年1月31日 (日)

山田和樹マーラー・ツィクルス《第2期》

山田和樹マーラー・ツィクルス《第2期》

主催/Bunkamuraオーチャードホール
管絃楽/日本フィルハーモニー交響楽団
指揮/山田和樹

【第四回】
武満徹/系図*
マーラー/交響曲第四番ト長調
語り/上白石萠歌*
ソプラノ/小林沙羅

二〇一六年一月三十日(土)オーチャードホール

 山田和樹と日本フィルによるマーラーツィクルス。第二期の今年は四、五、六番の三曲。去年の第一期では版の問題で何がやりたいか判らなかった一番、名演でCDになった二番、ミスだらけで及第点にも達さなかった三番と出来にムラがあったが、今期はどうなるだろうか。

 第一楽章は冒頭から大人しい演奏。別に大きな表情付や外連が必要とも思えないが、何だか聴いていて楽しい感じがしない。バーンスタインみたいに表情を濃くするのも悪くないが、表情は大人しくてもヴァルターのように共感に溢れていれば幸せな音楽になるはずだ。残念ながらそのどちらでもなく、後半で一か所だけ大きくルバートをした以外特筆すべきことも無く、実に淡々と音楽が進んでいく。聴き手の心が暖まる前に終わってしまった感じがする。
 第二楽章も同様。この楽章では最も重要と思われる、ヴァイオリンソロの諧謔味・不気味さも薄く、淡々と音楽が進んでいく。この辺まで聴いていて気がついてきたのだが、何だか今日の日本フィルはやる気がない感じがする。
 第三楽章は好きな楽章である。冗長だという意見もあるが、生で聴いていると段々陶酔的な感じになっていき、クライマックスの天国の扉が開く部分(個人のイメージです)で我に返る感じが好きなのである。山田の音楽作りはこの楽章に向いているだろうと期待したのだが、ここでも淡々と音楽が流れて、陶酔感が全くないのだ。そして、かなり感動的であるはずのクライマックスも表面的で、単にデカい音を出しているという雰囲気。残念だが何の扉も開かなかった感じで、その後の結尾部も名残惜しさみたいなものが感じられない。
 こうなったら第四楽章の歌に期待するしかないと期待したのだが、最後に逆転勝ちはなかった。この曲の独唱はあくまで澄んで軽い声質が欲しいところで、バーンスタインがボーイソプラノを起用した(評価は散々だったが)気持ちがよく解る。小林の声は重くはないが、表情付けが素人臭く、更に発音が悪いのが残念だ。発音云々言うからにはオマエはドイツ語が完璧なんだなと言われると一言も無いが、聴き慣れた曲であるから言葉を理解していなくても何と言っているのか判らないと云うことは判るのである。
 全曲を通してオーケストラのやる気のなさしか感じられない演奏だった。長く日本フィルを聴いているが、こんなのとは珍しい。お仕事モードで演奏していても聴かせどころや最後の部分ではやる気を出して(いるふりをして?)帳尻を合わせるのが日本フィルだと思っていたのだが、今回は曲のせいかもしれないがそれすらなかった。このツィクルスもまだ折り返し前なので、この先こんな演奏が続かないことを祈りたい。リハーサルで決裂したりしていないといいのだが。

【第五回】
武満徹/ア・ストリング・アラウンド・オータム*
マーラー/交響曲第五番嬰ハ短調
ヴィオラ/赤坂智子*

二〇一六年二月二十七日(土)オーチャードホール

 今回は大満足。百点は付けられないが合格点かつ敢闘賞という所か。冒頭のトランペット独奏がいきなりコケて始まったので、どうなることかと心配したが、第一楽章は遅めのテンポを基調に目一杯濃い表情付けで進めていく。旋律の歌わせ方、フレーズの移り変わりのルバートなど、期待通りのやりたい放題。若手なんだから思ったことは全部やってみればいい。第二楽章も同様、メリハリ、デフォルメ、外連を多用して、高カロリーな音楽を積み上げて行く。オーケストラも良く鳴っている。第三楽章も同様で進めていくが、ここでは曲の冗長さが若干気になった。これは山田のせいではなく曲自体の問題かも知れない。この辺はまだ山田は若く、老練なインバル爺あたりに敵わないところだろうか。第四楽章は一転して、スローテンポで弱音を強調した作り。これも大成功で、実に感動的な音楽に鳴っていた。オーケストラに更なる緊張感が欲しかった部分もあったが、後半の囁くような表現に不覚にも涙腺が緩んでしまった。これは大名演になるかと期待した第五楽章は、山田の表現はいいのだが、オーケストラが疲れてしまったのか、急に鳴りが悪くなってしまった。もっとも、最初から管楽器群に比べ絃の鳴りは良くなかったのだが、第四楽章で休憩したら管楽器が疲れてしまったのかも知れない。スタミナ切れな感じのフィナーレで残念。ここに体力が残っていれば相当な名演になっていたと思う。
 日本フィルは管楽器分に比べ絃の鳴りがイマイチ。そして、ホルンとトランペットのソロが若干足を引っ張った感がある。それでも、一、二、四楽章は大変な名演だったと思う。山田和樹は元祖ヤマカズ同様、ムラがあって面白い。次の六番は五番ほど遊べる要素が無いので、どう料理するのか楽しみである。


【第六回】
武満徹/ノスタルジア*
マーラー/交響曲第六番イ短調
ヴァイオリン/扇谷康朋*

二〇一六年三月二十六日(土)オーチャードホール

 期待通りの六番と言っていいだろう。期待とは、まだ若いんだから遠慮せず思ったことをやって欲しいということ。五番とは打って変わって快速ベースの第一楽章。今日はオーケストラが最初から良く鳴っている。緩急のメリハリを付けて、第二主題ではぐっとテンポを落として歌わせる。多少荒っぽいところはあるが、やりたいことを伸び伸びやっている感じが快い。
 第二楽章も早めのテンポで良く鳴らして同系統の好演。日本フィルもホールに慣れたのか、最初の頃に比べると見違えるほどオーチャードホールが鳴っている。
 第三楽章はテンポは中庸だが、良く歌わせた演奏。五番の時は弱音を強調して成功していたが、今回はたっぷり歌わせている。ホルンのソロも安心の出来だ。
 終楽章はやはり難しい。曲自体が冗長で扱いにくい楽章だ。山田は導入部の手探りで進む感じをうまく出していた。しかし、主部に入ってからは若手らしく力で押しまくる演奏。恐らくこれ以外にやり様は無いのだろう。一本調子に聞こえるのは曲の問題が大きい。ハンマーが鳴って以降はどうにも退屈な曲だが、どうにか緊張感を失わずに最後まで行ったのは立派だと思う。この楽章は無駄に長く、更にハンマーが二度鳴ることで意味が解らなくなる。演奏者も聴衆も、集中力を途切れさせないようにするのが大変だが、山田は若手らしく力業で押し切った。
 細かいところの荒っぽさや、オケの音にまとまりが無い(これは昔から日本フィルの特徴)点が気になり、指揮者の表現にも出来不出来があるが、第二期の三曲は面白く聴くことが出来た。残りの三曲はさらにとりとめが無い曲なので、山田がどう料理するのか楽しみだ。少なくとももう一年ちょっとは生きて、このツィクルスを最後まで聴きたいと思う。

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