« 2017年7月 | トップページ

2017年8月29日 (火)

ミカド二題

サリヴァン/喜歌劇「ミカド(またはティティプの街)」

(一)
ちちぶオペラ 秩父宮記念市民会館開館記念公演
主催/秩父市、ちちぶオペラ実行委員会

出演/鹿野由之(ミカド)、水野洋助(ココ)、羽山晃生(ナンキプー)、薗田真木子(ヤムヤム)、諸静子(カティシャ)、佐藤健太(プーバー)、富田駿愛(ピシュタシュ)、齋藤雅代(ピティシン)、山口由里子(ピープボー)他
合唱/ちちぶオペラ合唱団
管絃楽/ちちぶオペラ楽団
ステージング・振付/野口菜美
指揮・演出/細岡雅哉

二〇一七年八月二〇日(日)秩父宮記念市民会館大ホール

(二)
新国立劇場地域招聘オペラ公演びわ湖ホールオペラ「ミカド」
主催/滋賀県、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール、新国立劇場

出演/松森治(ミカド)、二塚直紀(ナンキプー)、迎肇聡(ココ)、竹内直紀(プーバー)、五島真澄(ピシュタッシュ)、飯嶋幸子(ヤムヤム)、山際きみ佳(ピティシン)、藤村江李奈(ピープボー)、吉川秋穂(カティシャ)他
合唱/びわ湖ホール声楽アンサンブル
管絃楽/日本センチュリー交響楽団
指揮/薗田隆一郎
演出、訳詞/中村敬一

二〇一七年八月二七日(日)新国立劇場中劇場


 サリヴァンのミカドというオペラを知ったのは二〇〇三年。ちちぶオペラが初の東京公演を行う際に、たまたま東京側の関係者としてごく緩く関わったのが始まり。この時は「そんなオペラがあるのか」くらいで、公演を観るわけでもなくそのまま忘れていた。
 二~三年前に著作権切れの音源をダウンロードして面白半分で聴いてみたら結構面白かったので、以来CDを買ってたまに聴いたりしていた。
 猪瀬直樹が副知事時代に部下に読むことを強制したといわれる自信作、「ミカドの肖像」も読んでみたが、分厚い本のわりに中身は「ミカドをキーワードに、次々と色々なことに興味を持って解明しているオレってすごいでしょ!」という、典型的な「オレちゃんドキュメンタリー」で、読めば読むほど作者のお人柄がしのばれ、個々のテーマは面白いのに、読み続けるのが苦痛になって途中で投げ出してしまった。
 軽い内容で楽しいオペレッタだが、日本のミカドが愚かな権力者として笑われる内容なので、洒落の通じない目の据わった日本人が騒ぐと厄介なので、日本ではなかなか上演されないのも理解出来る。生で聴く機会なんて滅多に無いだろうなあと思っていたら、この夏立て続けに二つの芝居があったので、迷わず両方聴きに行ってみた。もっとも私は今までオペラに興味が無く、二回しか観たことがないので、二つの公演を立て続けに観たオペラ初心者の感想ということになる。

 ちちぶオペラは、永六輔のラジオでの発言がきっかけで、秩父で「ミカド」を上演することで始まった地域オペラ。「ミカド」の上演は二〇〇一、二〇〇三、二〇〇六、二〇一一年に続き五回目とのこと。二〇一一年の震災で破損した市民会館の再建柿落し公演。チケットを大手が取り扱っていないので秩父まで前売り券を買いに行ったが、一般売りは二階席のみ。一階席は関係者のみの雰囲気。市民会館の開館記念公演だから仕方あるまい。入口を入ろうとすると畏友K女史がチケットもぎりをしている。お互いびっくりするが忙しそうなので一言挨拶して通過。後で聞いたところ、ボランティアスタッフの研修講師をしていて、今日は先頭に立ってフロアスタッフをしているとのこと。相変わらず精力的に活動しているようで頼もしい。
 新生秩父宮記念市民会館は収容千人程度の多目的ホール。前方の座席を外してオーケストラピットにしているが、床面が沈まないので、演奏エリアと言うのが適切か。シンセサイザー二台を中心とする十一名編成。序曲の前に紗幕を下げた奥で祭り囃子の演奏がある。オペラ本編が始まっても徹底的に「秩父の」ミカドである。物語も歌詞も台詞も秩父を前面に出している。地域オペラというものはこれでいいと思う。客席が暖まるのも早く、各アリアにも盛大な歓声が上がる。五回目の上演というのも強みで、今までの上演で受けた部分を残し、受けなかった部分を切り捨てて練り上げられた印象。第一幕終わり近くで、男三人のトリオ(第一〇曲)の最後の部分(六十六小節以降)を三回(四回だったか?)もアンコールする所などは、今までの公演で大受けした自信がなければ出来ない演出だと思う。また、第二幕でミカドが懲らしめる奴を列挙するところで、「自分は音を出さないで棒だけ振り回している奴は、全部の音を止めてやるぞ」と言って、全員が沈黙して指揮者を嘲笑するクスグリも気が利いていた。

 一方びわ湖ホールは、新国立劇場が毎年一回招聘する地方制作のオペラで、八月の五、六日にびわ湖ホールで上演したものの再演。こちらはしっかりしたオーケストラピットに、三十四人編成の日本センチュリー交響楽団が入っている。一方で舞台装置は大変にシンプルで、絵を描いた枠がある以外は、正面にスクリーンが有り、そこに日本の観光地などの映像がシーンごとに映し出される。大工仕事が入ったであろう秩父に比べると随分安上がりに見える。もっとも、秩父も序曲の演奏中にキャストの紹介を映像で流していた。普段オペラや芝居を観ないので判らないが、今時はプロジェクターを使う演出は当たり前なのかも知れない。演出は堅実と言っていいと思う。びわ湖色は一切無く甚だ曖昧なジャパンを舞台に物語は進む。衣装がかなり奇抜で面白いのだが、主役のヤムヤムだけ何故か破れたジーンズにハネ上げのサングラスという姿に違和感があったが、だんだん慣れてきてしまった。だのに、最後の最後、大団円のシーンだけ何故か全員衣装が替わり突然大阪の繁華街になってしまった。ここはちょっとぶっ飛びすぎていて理解不能な気がした。

 両公演とも所謂地方オペラで、地元民及び関係者で作り上げた公演だ。藤沢などの市民オペラと違い、基本アマチュアは参加しないプロの仕事である。同じ演目を別の芝居で立て続けに観られたのはとても幸運で、色々見比べることが出来た。舞台セットと乗りは秩父優勢、オーケストラと衣装はびわ湖優勢で、キャストはどちらも適材適所ですばらしかった。そして共通で言えるのは、どちらもとても楽しい公演だったということだろう。
 私が今までオペラを殆ど観ていないのには色々理由があるし、今後オペラ通いをするようにもならないと思う。しかし、「ミカド」のような喜歌劇を、日本語上演で、四桁の入場料で観られるのであれば足を運びたいと思う。

| | コメント (0)

« 2017年7月 | トップページ