東京都交響楽団第一〇三六回定期演奏会Aシリーズ
東京都交響楽団第一〇三六回定期演奏会Aシリーズ
二〇二六年二月一七日(火)東京文化会館
独唱/ファン・スミ、エレノア・ライオンズ、隠岐彩夏(ソプラノ)、
藤村実穂子、山下裕賀(アルト)、マグヌス・ヴィギリウス(テノール)、
ビルガー・ラッデ(バリトン)、妻屋秀和(バス)
合唱/新国立劇場合唱団(合唱指揮:冨平恭平)、
東京少年少女合唱隊(合唱指揮:長谷川久恵)
管絃楽/東京都交響楽団
指揮/エリアフ・インバル
マーラー/交響曲第八番変ホ長調
前々日の創立六〇周年記念都響スペシャル、前日のインバル九〇歳記念都響スペシャルに続く「千人」三日連続公演。九〇歳のインバルは普通に立ったままで指揮する。驚異的な爺パワーで恐れ入る。
インバルが日本で「千人」を振るのは五回目(十一公演目)。一九九六年の第一回マーラーチクルス(二公演)、一九九九年の新宿文化センター開館二〇周年記念公演(一公演)、二〇〇八年のプリンシパルコンダクター就任記念(三公演)、二〇一四年の第二回マーラーチクルス(二公演)、そして今回の第三回マーラーチクルス(三公演)。私は二〇〇八年以降六公演を聴いている。今回は日曜日のチケットが取れなかったので三公演中二日目と三日目を聴いた。
インバルの「千人」が悪かろうはずもなく、何処がどうだったとか細かなことを言う気にはならないが、第一部の後半の煽るのではなく音がどんどん厚みを増していく感じや、第二部後半の出来上がっている感じなど、流石としか言いようがない。
備忘として絃は十六型のようだったが、若干端数がいたような気がした。管は楽譜通りでピッコロ、小クラリネットは各一、ハープは四台、バンダは二倍で三階席の上下、栄光の聖母は三階席下手、ティンパニは四台セットプラス冒頭用一台で、第一部のzu2は装飾音的な両手打ち、第二部のzu2は二台打ち、複数シンバル一回目は吊りシンバル三枚、二回目は合わせシンバル三組。と、ここまでは今までのインバルの「千人」ではほぼ出来上がっている形だが、新機軸もあった。
まずは独唱者の位置。今まで(前日のサントリーホール公演まで)はオケと合唱の間か、児童合唱と混声合唱の間に配置していたが、今回は舞台前面。下手に指揮者寄りからソプラノ一、二、アルト一、二の順(通常と逆)、上手側は普通にテノール、バリトン、バス。そして独唱者たちの前には譜面台の他に液晶モニターらしき機器が設置されている。かねがね私は、独唱者は舞台前面に並べるべきだが、そうすると極端に指揮者が見えづらくなるのが難点だと思っていた。その問題を一発解決してくれた。インバルのアイディアなのか、都響のステージマネージャーの知恵なのか判らないが、TVモニターで指揮者を見るというのは気が付かなかった。実に素晴らしい最終結論と言っていいと思う。
更にこの曲を自家薬籠中の物としているインバルの芸が細かいところは、第二部の懺悔する女から栄光の聖母のソロに受け渡した後、懺悔する女は座らずに、栄光の聖母が歌い終わってマリア崇拝の博士が歌い始めるまで、ずっと栄光の聖母を見上げていた。言うまでもなくこの場面は懺悔する女と栄光の聖母が対峙する場面なので、こうでなくてはならない。栄光の聖母を合唱の後ろに置いて、懺悔する女の背後から歌わせるような浅はかな指揮者達にこれが正解だと教えてやりたい。
そして、第二部の法悦の教父と瞑想する教父のソロの部分では、伴奏の絃楽器を半分に減らしていた。これは前回気づかなかったので今回からだと思うが、オケに埋もれがちなソロ(特にバス)を掘り起こす素晴らしいアイディアだったと思う。
声楽陣のレヴェルの高さも特筆ものだった。新国立劇場合唱団と東京少年少女合唱隊は合わせて二百五十名くらいかと思われた。やはりプロの混声合唱というのは安心で、人数は少ないがダイナミクスレンジの広さは申し分なく、表現も練れている。児童合唱も日本で最高レヴェルの団体なので、発声、声量、表現とも素晴らしい。
また、独唱者たちもレヴェルが高く、不安になる場面が無かった。特に第二ソプラノとテノールは声量、表現とも絶品。個々の力量も素晴らしかったが、アンサンブルとしても調和が取れていた。第二部のクライマックス、懺悔する女、栄光の聖母、マリア崇拝の博士、神秘の合唱と受け継がれていく部分は圧巻、ギリギリの遅いテンポで歌い切った第二ソプラノとテノール、そして神秘の合唱を鳥肌の立つようなピアニシモからホールを震わせるようなフォルティシモまで唱いあげた合唱団にはただただ絶賛以外に言葉が無い。
長年マーラーの作品を演奏してきたインバルと都響のコンビ。今回のチクルスは二〇二五年から年一曲づつ取り上げていくという。それが完結するのかは別として、インバルの「千人」を日本で聴けるのはこれが最後となる可能性が高い。コロナ以降舞台ものからすっかり足が遠のいていたが、本当に聴いておいてよかったと思える演奏会だった。
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